最高裁判所第三小法廷 平成9年(行ツ)238号 判決 1998年3月24日
東京都中央区築地三丁目五番四号
上告人
日鐵溶接工業株式会社
右代表者代表取締役
木村達也
右訴訟代理人弁護士
吉井参也
同弁理士
田中久喬
千葉県茂原市下永吉四九七番地
被上告人
吉田桂一郎
右訴訟代理人弁理士
鈴木正次
右当事者間の東京高等裁判所平成七年(行ケ)第四三号審決取消請求事件について、同裁判所が平成九年七月一六日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人吉井参也、同田中久喬の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすきず、採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 園部逸夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信 裁判官 元原利文)
(平成九年(行ツ)第二三八号 上告人 日鐵溶接工業株式会社)
上告代理人吉井参也、同田中久喬の上告理由
一 まえがき
原判決は、「審決が、本件発明は、引用例1~5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないとしたことは、各引用例記載の技術内容及びこの技術分野における周知技術を十分に検討することなく、安易にその容易推考性の判断をしたものというほかはなく、誤りといわなければならない。」(判決書二八頁一二行~一八行)との判断を下された。しかしながら、原判決には、事実認定における経験則違背、並びに特許法第二九条第二項の規定の解釈、適用において判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背があり、また理由不備の違法があるから、破毀されるべきである。
以下、項を改めて順次述べる。
二 原判決は、本件発明が引用例1~5(引用例1~5の原審における甲号証の番号、並びに、特許庁の審判手続における甲号証の番号の「一覧表」【参考第1】を本上告理由書末尾に添付する)に記載された発明に基づいて容易推考性を有するかどうかを判断するに際して、次の(1)、(2)、(3)、(4)の項目に分けたうえ、(5)として「まとめ」をされている。
(1) フラックス入りワイヤの製造にカセットローラダイスを用いることについて
(2) カセットローラダイスのユニットを2以上直列に配置する点について
(3) 内部に二〇~四〇%重量比のフラックスを充填した成形ワイヤ素線を材料とした点について
(4) ワイヤの合せ目間隙三〇μm以下になるまで伸線加工するとの点について
本件発明の容易推考性を考察する場合に、右の四つの技術上の項目に分けること自体が相当であるかという問題があり、また、各項目は、しばしば交錯するものがあり、全体的、有機的な考察を要するものであるけれども、なるべく判示の順序に従って、上告人の見解を述べたい。
上告理由の説明の便宜のために、伸線に用いられる機械工具のうち、孔ダイス、ローラダイス、カセットローラダイスについて、その技術を原審に提出された証拠に基づいて簡単にまとめたものを「孔ダイス、ローラダイス、及びカセットローラダイスによる伸線方法の技術比較」【参考第2-1、同第2-2、同第2-3】として、上告理由書末尾に添付する。
なお、原判決に「ローラダイス」という用語が記載されている。ところで、「ローラダイス」とは、孔ダイスによる引抜加工は外部摩擦が大きいという難点があるので、それを解決するため、孔型ローラを組合せてダイスを形成したものであり、色々のタイプがある様であるが、日本においては、ハウジングの中に二組のローラを直角に配置した二連式ローラダイスが開発され広く実用化されたのであり、それを開発し、その道の権威とされた東大名誉教授五弓勇雄博士にちなみ、「五弓式」とも称せられるものである。日本において「ローラダイス」と言うときは、特に説明のない限り、右の二連式ローラダイスを意味すると言っても過言ではない(〔イ〕甲第一七号証の「ダブルローラーダイス」一頁右下欄一〇行、第2図、〔ロ〕乙第五号証の二の第三〇四頁~第三〇九頁、特に第三〇七頁の下から六行目~下から三行目、〔ハ〕甲第三号証の一の四頁左上欄四行、一四行、〔ニ〕甲第二一号証の九頁一行~一一頁末行)。しかして、原判決において引用例5として引用されている甲第七号証の中の二頁左上欄一三行、一四行、三頁左上欄一五行、同頁右上欄二行に記載されている「ローラダイス」なる用語には、特に説明は付されていないから、それは右の二連式ローラダイスを指称していると解するのが相当である。この点について、原審において原告(被上告人)から特に発言はなかった。
三 「フラックス入りのワイヤの製造にカセットローラダイスを用いることについて」の項目について
1 原判決が、この点について、引用例5と引用例3を柱にして示した認定判断
(一) 原判決は、まず、引用例5(甲第七号証)から次の事実を認めている。
「本件発明の出願当時、内部にフラックスを充填した成形ワイヤ素線を材料にし、さらにこれを細径に伸線加工するフラックス入りワイヤの製造方法において、前記ワイヤ素線を、ローラダイスを用いて伸線すると共に、該ローラダイスを複数個組み合わせて直列に配置して線材を連続的に通過させて伸線加工することにより、本件発明におけるワイヤ径の範囲内のフラックス入りワイヤを製造する方法は、公知の技術であったことが明らかである。」(判決書一九頁二行~一〇行、なお、判決文の傍線は上告人が付したものである。以下同じ)。
(二) 次に、引用例3(甲第三号証の一)を引用して、
「引用例3の伸線加工の方法が、審決認定のとおり、『一対の小径溝付ローラからなるローラダイスを複数個伸線方向に交互にワイヤ圧下方向が九〇度ずつ変わる如く近接し組合せて一個のユニットに構成したカセットローラダイス即ち本件特許発明でいうカセットローラダイスを用いて、本件特許発明におけるワイヤ径の数値範囲である2.0~0.8mmの径に伸線加工する点で、……本件特許発明と一致している』(審決書七頁一一行~八頁五行)ことは、当事者間に争いがない。」(判決書二〇頁一一行~一九行)と認定し、
続いて、次のとおり説示している。
「引用例3に記載されている機枠フレームの大型化を解消し、あるいは複数個のローラダイスを連続的に通過させて伸線加工する際に、素材の転倒(捩れ)を防ぐために、隣接孔型ローラ間の中心距離を可及的に近接させる必要があるとの技術課題は、引用例3に直接言及されている丸線(中心部まで均質な材料から成る中実線)においてのみならず、同様の伸線加工をする内部にフラックスを充填した成形ワイヤ素線の伸線加工においても存在することは、当業者にとって自明のことと認められるから、引用例5に記載されている公知の技術におけるローラダイスを複数個組み合わせて直列に配置することに代えて、引用例3の技術を適用し、複数個のカセットローラダイスを直列に配置することは、当業者にとって容易に推考できることと認められる」(判決書二〇頁末行~二一頁一三行)。
2 上告人が不服とする点
(一) 原判決は、引用例5(甲第七号証)及び引用例3(甲第三号証の一)の技術内容について技術常識に反する重大な事実誤認をして結論を導きだしている。これは、原判決が各引用例を関連づけるため各引用例の技術内容について、技術常識に反する裁判所独自の解釈をしたことによるものと考えられる。
(二) 引用例5について述べれば、判決文の「原告主張の審決取消事由の要点」(判決書四頁九行~一〇頁一五行)及び「被告反論の要点」(判決書一〇頁一六行~一八頁五行)の中に引用例5についての具体的な記述がないことから明らかなように、原告は審決取消事由で引用例5について何ら具体的な主張をせず、また被告も引用例5について具体的な反論をしていない。このように原告が引用例5についての主張をしなかったのは、引用例5は本件発明の先行技術になり得ないことをよく知っていたからである。それにもかかわらず原判決では、引用例5の技術内容を技術常識に反する誤った解釈をして、先行技術として重要な位置づけをした。
よって、引用例5が本件発明の先行技術となり得ないこと、及び、原判決が引用例5の事実誤認をしていることについて説明する。
引用例5は、フラックス入り溶接用ワイヤに関する発明であって、その製造にローラダイスを使用することが記載されているが、原判決は、前記のように、
「該ローラダイスを複数個組み合わせて直列に配置して線材を連続的に通過させて伸線加工することにより、本件発明におけるワイヤ径の範囲内のフラックス入りワイヤを製造する方法は、公知の技術であったことが明らかである。」(判決書一九頁六行~一〇行)
と判示している。
しかしながら、次のような事実誤認があるが、それは経験則違背によって生じている。
(1) 「該ローラダイスを複数個組み合わせて直列に配置して」(判決書一九頁六行、七行)と認定しているけれども、ローラダイスを複数個組み合わせることはローラダイスの構造上から実施不可能なことであって、これも従来の技術常識に反する事実誤認である。
乙第五号証の前記ローラダイスに係る説明から明らかなように、ローラダイスは、V(垂直)、H(水平)の二組のローラダイスを使用し、第一段の孔型をオーバル(楕円)、第二段の孔型をラウンド(丸)にした組合せで丸線より丸線を引き抜くものであって、ローラの支持機構としてハウジングを利用している(乙第五号証三〇七頁下から六行目~下から四行目)。この構造のためローラダイス(一組の孔型ローラ)の組合せは、ハウジングの中に通常2個しか組合せることが出来ず、引用例3に記載されるカセットローラダイスのように任意の数の複数個を組合せることが不可能であるのが技術常識である。
このことは、引用例3(甲第三号証の一)四頁左上欄二~一五行に、「例えば丸線より丸線を加工する場合にオーバル孔型のローラダイスと丸孔型のローラダイスを組み合わせて二連式ローラダイスとする技術が知られている。・・・・また従来技術においては、一組の孔型ローラよりなる多数のローラダイス群を近接して直列に設置することは困難であったから、通常多数のローラダイスを通して引抜加工するには、前記のように二連式ローラダイスを多数回通過させる方式が普通であった。」と記載されていることからも明らかである。
それにもかかわらず、判決では、ローラダイスを複数個組み合わせて(換言すれば、本件発明のユニットのように五枚でも一〇枚でも任意の個数を組合せて)直列に配置することが公知の技術であったことが明らかであると、技術常識に反する事実認定をしているが、これも乙第五号証及び甲第三号証の一に記載されている右の技術事項を無視するものであって、経験則違背であると言わねばならない。
(2) ローラダイスを用いる伸線では、本件発明におけるワイヤ径(二・〇~〇・八mm)の範囲内のフラックス入りワイヤを製造することはできないとするのが本件発明の出願当時の技術常識である。
原審で被告が提出したローラダイス引抜きに関する技術事項が記載されている文献乙第五号証(「金属塑成加工の進歩」東大名誉教授 五弓勇雄編著)の第三〇七頁「5・3・3 ローラダイスの種類」の項中に「ローラダイスの原理はV・H・の2組のローラーを使用し第一段の孔型を特殊なオーバル、第二段孔型を丸にした組合せで丸線より丸線を引き抜くことにある。・・・・国の内外で最も多く使用されているローラダイスは図5・39に示したものであるが、これは装置をコンパクトにするため圧下機構としてphone型圧延機の圧下機構であるヒンジを利用している。そのための欠点としては剛性がやや小さいので引抜線の精度が±0.1mm程度なので細線の仕上としては無理で中間引に適しているし仕上線としては2mmφ以下は困難である。」(第三〇七頁下から六行~第三〇八頁二行)と記載されている。
右のように、ローラダイスによる中実線の伸線加工において細径の限度が二・〇mmであるのは、精度が±0.1mmであるためであるが、まして、高速溶接機に用いられる本件発明が目的とするフラックス入りワイヤ(甲第二号証の一本件特許公報三欄二行~七行)の伸線加工にローラダイスを用いた場合、二・〇mm以下のものを製造することができないことは、本件発明の出願当時の技術常識であった。
このため、引用例5においては、一・二mm、一・六mmの径のフラックス入りワイヤを製造するために、まず、ローラダイスにより二・四mmに伸線し、その後、細径に引抜き加工が可能な孔ダイス(引抜きダイス)により一・二mm、一・六mmに仕上げている。つまり、ローラダイスと孔ダイスを組み合わせて伸線加工を行っている。しかもフラックスの充填率は、本件発明の充填率よりも低充填率で伸線加工が容易な一四・九~一五・五%のワイヤの伸線加工の場合のことである(甲第七号証二頁左上欄一一行~右上欄四行、及び、三頁左上欄九行~右上欄六行、並びに、「表1実施例」)。
このように、引用例5では、本件発明におけるワイヤ径の範囲内のフラックス入りワイヤを製造するためには、ローラダイスと孔ダイスとを組み合わせることが欠くことができない要件であるのが技術常識であるにもかかわらず、原判決は、ローラダイスのみを用いて伸線加工することにより本件発明におけるワイヤ径の範囲内のフラックス入りワイヤを製造することが公知の技術であったと、従来の技術常識に反する判示をしている。
ところで、甲第七号証には、「次いでこの素線を任意の細径、例えば一・二mm、一・六mmの径にまで、引抜きダイスあるいはローラダイスまたは引抜きダイスとローラダイスの組合せで、仕上げ伸線する。」(甲第七号証二頁左上欄一一行~一五行)との文言(以下「引用文」という)があり、ローラダイスのみで伸線したときでも一・二mm、一・六mmの径にまで伸線できるかの如き記載がある。しかしながら、前記のように、甲第七号証の三頁左上欄九行~右上欄六行並びに「表1実施例」に記載されているところによれば、ローラダイスのみによる伸線加工では二・四mmのものまでしか出来ないことが記載されているのであって、「引用文」は右の趣旨を内容とすることは明らかである。甲第七号証のものが、孔ダイスとローラダイスの両者による伸線加工であることを示す表【参考第3】を本上告理由書の末尾に添付する。
右の次第であるから、乙第五号証の編著者である五弓名誉教授は二連式ローラダイスの発明者として著名な学者であるが、右書籍に記載されているように、中実線の伸線において直径二・〇mm以下は困難という技術常識の存在するときに、かつまた、甲第七号証の前記の実施例の記載において二・四mmまでと明記されているときには、甲第七号証の一部に多少不明瞭な記載があって、該文章のみを形式的に読むならば、ローラダイスのみによって一・二mm、一・六mmにまで伸線可能と読み取れる個所があったとしても、直ちに該文章によって判断することは、経験則に違背すると言わねばならない。
ところで、判決書一八頁一三行~一九頁一行によれば、審決で認定され審決書に書かれている記載をそのまま双方当事者間に争いがないとされている。しかしがら、審決書に或る事項が記載されている当該文章について上告人が積極的に反論していないとしても、それは、審決書にそのように記載されているということを否定していないだけであって、当該内容を是認する(すなわち、「争わない」)ということとは別個のことである。この点に関して、被告(上告人)は、原審において乙第五号証を提出しローラダイスによる伸線加工によっては中実線でも二・〇mm以下は困難であることを一貫して主張してきた(被告第三準備書面一五頁九行~一六頁四行、被告第四準備書面二六頁四行~九行)。一方、原告(被上告人)は、これに反する証拠は一切提出していない。
右の(1)、(2)の通りであるから、引用例5に記載されている技術は、低充填率すなわち一四・九~一五・五%のフラックス入りワイヤの場合において(本件発明は二〇~四〇%の高充填率のワイヤに関する)、ハウジングの中に二組の孔型ローラを収納した二連式ローラダイスの複数個を直列に配置して伸線した場合に二・四ミリの限度において加工できるに過ぎない技術である。
しかるに、原判決は、右(1)、(2)に述べたように、引用例5に基づいて、ローラダイスを任意の個数だけ組合せたものを複数個直列に配した工程による伸線によって、フラックス入りワイヤを一・二mm、一・六mmの細径にする技術は公知であると誤認している。そして、本件発明の容易推考性を判断する基礎として、引用例5に主要な役割を与え、ひいて判断をゆがめるもととなっていると言わざるを得ない。
(三) 次に、引用例3(甲第三号証の一)について述べる。
原判決は、中実線の伸線加工において複数個のローラダイスを連続的に通過させて伸線加工をする際に、素材の転倒(捩れ)を防ぐために隣接する孔型ローラ間の中心距離を可及的に近接させる必要があるとの技術課題は引用例3に記載されているが、フラックスを充填した成形ワイヤ素線の伸線加工においても同じ技術課題が存在することは自明のことと認められるということを根拠として、「引用例5に記載されている公知の技術におけるローラダイスを複数個組み合わせて直列に配置することに代えて、引用例3の技術を適用し、複数個のカセットローラダイスを直列に配置することは、当業者にとって容易に推考できることと認められる」との判断をしている(判決書二〇頁末行~二一頁一三行)。
そこで右の点について上告人の見解を述べる。
中実線の伸線加工の場合と同じようにフラックス入りワイヤの伸線加工の場合においても素材の転倒(捩れ)を防ぐために隣接する孔型ローラ間の中心距離を可及的に近接させる必要があるとの技術的課題が存在することは判決に説示されているとおりである。
しかしながら、フラックス入りワイヤの伸線加工、特に高充填率の素線を細径に且つ合せ目間隙を小さくする伸線加工と、引用例3が適用している中実線の伸線加工とは異なるものであるから(原判決が、両者は「同様の伸線加工をする」-判決書二一頁六行-と認めているのは、正しくない)引用例5の技術に短絡的に引用例3の技術を適用して容易推考を論じることには承服できない。
その理由は、次のとおりである。
(a) 原判決は、
「引用例3の伸線加工の方法が、審決認定のとおり、『一対の小径溝付ローラからなるローラダイスを複数個伸線方向に交互にワイヤ圧下方向が九〇度ずつ変わる如く近接し組合せて一個のユニットに構成したカセットローラダイス即ち本件特許発明でいうカセットローラダイスを用いて、本件特許発明におけるワイヤ径の数値範囲である二・〇~〇・八mmの径に伸線加工する点で、……本件特許発明と一致している』(審決書七頁一一行~八頁五行)ことは、当事者間に争いがない。」(判決書二〇頁一一行~一九行)
としている。
しかして、甲第一号証の審決書(七頁一一行~八頁五行)に右『』に指摘されている記載のあることは上告人においてもこれを認めるけれども、上告人においては『』内に記載されている内容(審決の認定は、明白な誤りである)を認めたことはなく、従って、「当事者間に争いがない事実」ではない。本件発明が高充填率のフラックス入りワイヤの伸線であるのに対して、引用例3は中実線の伸線であることは、原審において何度も述べたところであり、また引用例3には、本件発明の「ユニット」の技術が開示されていないこともしばしば主張したところである。更に、数値範囲を見るに単なる数値は重複しているけれども、一方は高充填率のフラックス入りワイヤであり、他方は中実線であって対比することが不合理であることもしばしば主張した。
(b) 「……に代えて、引用例3の技術を適用して複数個のカセットローラダイスを直列に配置する」とは、単位カセットローラダイスを直列に配置することを説示しているものと解される。このことは、原判決が前記のように「項目」(本上告理由書第二項御参照)を分けるに際して、(1)においては、単に「カセットローラダイス」を掲げているのに対して、(2)においては、「カセットローラダイスのユニット」を掲げている点からも明らかである(「配置図」を【参考第4】として本上告理由書末尾に添付する)。
そうであるとすると、引用例3のブロックを形成している複数枚の単位カセットローラダイスの一枚だけを単独に取り出して、これを何枚か相互に間隔を存して直列に配置するという技術は、いかにも特殊な技術であり、素材の転倒防止という点についてみても転倒防止を考慮していない技術であると言うほかない。しかのみならず、本件発明のカセットローラダイスのユニットの直列配置の構成とは異なるものである。原判決が引用例3を引用例5と関連づけるためには、このような段階を経由して(換言すれば、一挙に「ユニット」を持ち出すことができない)容易推考性を根拠づける必要があると考えられたからにほかならないと思われる。
右のように原判決が引用例5と引用例3の結びつきを斯かる点に求められているは、元来、引用例5及び引用例3が進歩性を否定する根拠として薄弱であることを物語っていると言うことができる。
(判決書二一頁一三行目の「容易に推考」とは特許法第二九条第二項の規定する「容易に発明をすることができたとき」を直接に言及しているのではないと思われる。何故ならば、ここでは、「ユニット」を構成要件とする本件発明そのものと対比しているのではないからである)。
(c) 原判決は、引用例5に示されている技術に代えて引用例3の技術を適用して複数個のカセットローラダイスを直列に配置することが当業者にとって容易推考である理由として、引用例3の発明において単位カセットローラダイスを構成している二個一対のローラの「離接調節」によって断面減少率を加減することができるものであることに、その根拠を求められている(判決書二一頁一四行~二二頁一二行)。
しかし、この「離接調節」については原告も被告も何ら具体的に主張していない事項であり、裁判所独自の誤った技術解釈となっている。
すなわち、「断面減少率は二個一対のローラの離接調節等を適宜に行うことによって加減しうる」(判決書二二頁二行~七行)旨判示しているが、カセットローラダイスの断面減少率は、ローラの溝(カリバー)によって一義的に決まるものであって、離接調節によって断面減少率は加減できないものである。そのことは、甲第一四号証(カセットローラダイス取扱い説明書)によって明らかである。
甲第一四号証中の第四頁の「5・調整方法」に未調整のカセットローラダイスの使用開始時には圧下スクリューによりローラギャップを調整して規定寸法にすること、また第五頁の「7・CRDの微調整」に使用中の引抜き環境の変化及び機械的摩耗等によって製品寸法にわずかな変動が生じたときに調整することが述べられているが、これが「離接調節」の意味である。そして、第五頁の「8・ローラーの変換・調整方法」には、「他の寸法を引抜く場合」(断面減少率を変える場合に相当する)は、ローラを交換して行うことが述べられている。すなわち、ローラ溝(カリバー)は、所望の断面減少率を得るため「溝」の設計値を定めて彫るのである。ユニットの場合は、ユニットとしての断面減少率を得るため、個々の単位カセットローラの「溝」の設計値が定まるのである。
このように、「離接調節」は、ローラギャップの微調整を行うためのものであって、断面減少率を加減するためのものではない。断面減少率を変える時には、ローラの交換が必要となる。
右のとおりであるから、「離接調節」について甲第一四号証(甲第三号証の一の発明の発明者である被上告人の会社の取扱い説明書である)に右のような記載があるとき、これに反して離接調節によって断面減少率を加減すると認定することは、経験則に反する認定であり、また、技術常識に反する認定であると言わねばならない。
なお、甲第一四号証は、原審において、原告(被上告人)が、原告準備書面(3)で、カセットローラダイス販売時に顧客に取扱い説明書を交付したことを説明するために提出された証拠であって、これによって原告が減面率を変えることを主張したものではない。
右(a)、(b)、(c)に照して考察すれば、元々、引用例5に示されている技術は、低充填率(一四・九%~一五・五%)のフラックス入りワイヤを二連式ローラダイスを直列に配置して伸線する方法であるが、二・四mmの径までの伸線は可能であるが、それ以上に細い径に伸線することはできないという加工方法であるから、高充填率(二〇~四〇%)のフラックス入りワイヤを二・〇mm~〇・八mmの細径に、しかも合せ目間隙が三〇μm以下に伸線する方法を研究開発する場合に、引用例3があるからといって、右の二連式ローラダイスに代えて、引用例3のブロックを構成する単位カセットローラダイスの一枚を取り出して、その複数枚を間隔をあけて直列に配置することを当業者が容易に推考できるとは、到底考えられないところである。それのみならず、単位カセットローラダイスの一枚ずつを間隔をあけて直列に配置することは、特殊な配置であって、当業者は普通は行わない方法であると考えられる。
付言すれば、原審において、原告(被上告人)は、引用例3に示されている「ブロック」を本件発明の「ユニット」と同一視する主張をされたが、原判決は、そのような主張は採用されなかった。
四 「カセットローラダイスのユニットを2以上直列に配置する点について」の項目について
1 原判決が、この点について、引用例1を柱にして示した認定判断
原判決は、
「このように、素材の強度その他の理由により伸線工程を段階的に行うことは、引用例1(甲第五号証)のフラックスワイヤの伸線工程においても採用されている技術であり(同号証二頁左上欄一〇~一一行、二頁左下欄一九行~右下欄二行、第5図)、それ自体、周知慣用の技術と認められ、これを採用することに格別の発明力を要したものと認めることはできない。」(判決書二四頁一四行~同頁末行)
と認定している。
2 上告人が不服とする点
しかしながら、素材の強度その他の理由によって伸線工程を段階的に行うことが、それ自体、周知慣用の技術であるとしても、周知慣用の技術の名の下にカセットローラダイスを取り込むことができるかどうかは別問題であると言わねばならない。取り込むことができるかどうかは、本件発明の特許出願当時のカセットローラダイスの技術の進歩の程度と、本件発明がどのような課題の解決に向けられているかどうかということを考慮しなければならないと考えられる。
右の視点から考察すれば、本件特許出願当時のカセットローラダイスは、甲第三号証の一(引用例3)の公開公報が出ているだけの時期、すなわち、カセットローラダイスをブロックにして減面率を大きくして一回通過によって中実線の伸線を行う技術が公知になっているだけの時期であって、カセットローラダイスを用いることは始まったばかりであり、到底、成熟の時期に入っていたと言うことの出来ない時期であるから、段階的に伸線をするという一般的な技術のやり方があったとしても、高充填率の細径の合せ目間隙の狭いものを作る場合にカセットローラダイスを応用することが可能かどうかは、自明のことではなく、やってみないと分からない技術事項であった。
すなわち、単位カセットローラダイスの枚数を変化させて色々の構成のユニット(例えば、三枚から成るユニット、八枚から成るユニット等)を作ること自体が知られていなかった。さらに、ユニットの構成を採用して段階的に伸線した場合に、高充填率のフラックス入りワイヤの細径(二・〇~〇・八mm)のものを作る方法が開発できるかどうか、研究してみなければ分からない事項である。また、合せ目間隙を狭くする(三〇μm以下)方法が開発できるかどうか、これも研究開発をしてみなければ誰にもわからないのである。このような技術の段階にあるとき、本件の発明者は、研究開発を実行し、その結果、本件発明に到達したのである。
そもそも、単位カセットローラダイスの複数枚でユニットを形成し、該ユニットを直列に配して伸線を行う方法は、中実線の伸線についても、フラックス入りワイヤの伸線についても全く無かったのであって、本件発明をもって嚆矢とする。
右の次第であるから、原判決は、素材の強度その他の理由によって伸線工程を段階的に行うことは、それ自体、周知慣用の技術であるという名の下に、カセットローラダイスについてこれを採用することに格別の発明力を要したものと認められないという認定をされているが、この点においても特許法第二九条第二項所定の容易推考性の判断を誤る原因を作っていると言わねばならない。
五 「内部に二〇~四〇%重量比のフラックスを充填した成形ワイヤ素線を材料とした点について」の項目について
原判決認定のように、本件特許出願当時、二〇~四〇%の高充填率のフラックス入りワイヤを製造することは当業者に知られていた(判決書二五頁七行~一三行)。すなわち、当時、二〇~四〇%の高充填率のフラックス入りワイヤの需要はあり、孔ダイスによって製造されていたが、孔ダイスによる従来法は伸線の途中に断線が生じ効率的な製造方法ではなかったので、断線の生じない製造方法の開発が待ち望まれていたのである(甲第二号証の一の第三欄一行~二行、同一六行~二五行、同二六行~三二行)。その期待に応えたのが、本件発明である。
六 「ワイヤの合せ目間隙三〇μm以下になるまで伸線加工するとの点について」の項目について
1 原判決の認定判断
原判決は、
「本件明細書(甲第二号証の一、二)には、ワイヤの合せ目間隙三〇μm以下とするための格別の技術事項の記載がない」(判決書二五頁一九行~二六頁一行)
と認定し、また、
「本件発明における『ワイヤの合せ目間隙三〇μm以下となるまで伸線加工する』という構成は、フラックスを充填した成形ワイヤ素線を、直列に配置した2以上のカセットローラダイスのユニットを連続的に通過させて、線径を段階的に細径とする場合に、線材径方向に圧力が付加され減面して行くことにより到達できた結果を示したものにすぎず、それ以外に特別の技術を要するものではないことが認められる。………そうであれば、上述のとおり、フラックスを充填した成形ワイヤ素線を、直列に配置した2以上のカセットローラダイスのユニットを連続的に通過させてワイヤ径二・〇mm~〇・八mmにまで伸線加工することが、当業者において容易に想到しうるものと認められる以上、ワイヤの合せ目間隙三〇μm以下になるまで伸線加工することも、その容易推考の範囲に含まれることになるものというべきである。」(判決書二六頁一八行~二七頁一五行)
と判示している。
2 上告人が不服とする点
(一) 原判決の趣旨は、フラックスを充填した成形ワイヤ素線を直列に配置した2以上のカセットローラダイスのユニットを連続的に通過させて、線径を段階的に細径にすれば、ワイヤ径二・〇~〇・八mm、合せ目間隙三〇μm以下という結果に到達するのであり、特別の技術を要するものではないと言うのであるが、本件明細書にはワイヤ径二・〇~〇・八mm、合せ目間隙が三〇μm以下になるまで伸線加工する技術として、次のような技術が開示されている(原審の被告第四準備書面一九頁一六行~二二頁九行において主張したが、原判決は考慮されなかった)。
(a) 複数ユニツト(スタンド)の直列配置
素線から最終製品までの伸線工程の途中に何回も巻き取ると、シーム捩れを生じやすくなり合せ目間隙を狭くできないので、1ラインの工程にカセットローラダイスのユニツトは直列に配置する。そのため、実施例1では全8ユニット、実施例2では全14ユニット、そして実施例3では全12ユニツトを、それぞれ直列に配置して素線を順次通して伸線を行っている。
(b) カセットローラダイスの積層枚数と断面積減少率
多数のローラダイスを配置して、1ダイス当りの断面積減少率を出来るだけ小さくする。このようにして、多数のローラダイスで僅かずつ段階的に線材径方向に圧力を付加して減面して行くので最終的にフラックス入りワイヤの外皮合せ目の間隙を極めて小さくできる(甲第二号証の一の五欄四一行~四四行)。このためのユニットの単位カセットローラダイスの数、及びユニットの数は素材となる成形ワイヤ素線径と最終仕上げ線径を考慮して決める(甲第二号証の一の五欄三〇~三四行)。
(c) ローラの径の選択
カセットローラダイスの一枚目と二枚目の軸間距離が狭い程シーム捩れは生じ難くなるので、出来るだけ小径ローラを使用するのが適する。そのため、本件発明の実施例1、2、3では、ローラ径三五mmのカセットローラダイスを使用している(甲第二号証の一の六欄二六行、四〇行~四一行、第七欄一〇行~一一行)
(d) カセットローラダイスの組合せ
1ユニツト毎に円形状(Round)のローラ孔型を使用すれば、合せ目間隙を調節するのに好適である。そのため、実施例1、2、3では、カセットローラダイス3枚を組み合わせて1ユニツトとしている(甲第二号証の一の六欄二五行~二七行、四〇行~四一行、七欄一〇行~一一行)。例えば、楕円(Oval)↓楕円(Oval)↓円(Round)の如きローラ孔型のカセットローラダイス3枚の組み合せである。この組み合わせについては、原審における原告準備書面(四)第三頁一二~二〇行にも具体的に説明がある。
(二) 本件発明においては、前項記載の(a)、(b)、(c)、(d)の技術上の事項に従った場合にワイヤ径が二・〇~〇・八mmの伸線加工をすることができ、かつ合せ目間隙が三〇μm以下になるまで伸線加工をすることが可能となるのであって、原判決が判示されているようにユニットを直列に配置すれば、それだけでその結果として常にワイヤ径が二・〇~〇・八mmになり、かつ合せ目間隙が三〇μm以下のワイヤが得られるというものでは決してない。
更に詳しく述べれば、直列に配置した二以上のカセットローラダイスのユニットを連続的に通過させる方法によってワイヤ径を二・〇~〇・八mmにまで伸線加工する目的を達成したとしても、常に、必ず、合せ目間隙が三〇μm以下になるとは限らないのであって、本件発明は同時に合せ目間隙を可及的に狭くすることに解決課題を求め、その研究開発を同時に進め、カセットローラダイスのユニットの構成、その配置の構成などによってワイヤ径を二・〇~〇・八mmにすると同時に合せ目間隙を三〇μm以下にする伸線加工による製造方法を開発したのである。
従って、本件発明においては、直列に配置した二以上のカセットローラダイスのユニットを連続的に通過させる場合に、ワイヤ径二・〇~〇・八mmにまで伸線加工する工夫のほか、合せ目間隙が三〇μm以下になるまで伸線加工する工夫がなされているのである。
右のように、本件発明は既存の方法を単に改良したというものではなく、誰も知らなかった新規なもの(本件発明によって製造されるものは、二〇~四〇%の高充填率、二・〇~〇・八mmの細径であって、しかも、合せ目間隙が三〇μm以下のものである。従来法によって製造されるものは、充填率及びワイヤ径は同じであるが、合せ目間隙は本件公報六欄二行にあるように四五μm程度であった)を製造する技術であるから、特別の事情のない限り容易と言うことのできないものである。
なお、合せ目間隙を小さくすることは従来から望まれていたが、それが困難であるため、溶接等により合せ目間隙を無くすことが行われていた(甲第六号証一頁右下欄一七行~二頁右上欄六行)。合せ目間隙を三〇μm以下にする伸線加工技術は新規なものである(原審被告第三準備書面一二頁四行~一三頁一〇行で主張した)。
右の意味において、原判決がワイヤ径二・〇~〇・八mmにまで伸線加工すれば必然的に合せ目間隙は三〇μm以下になるとの前提のもとに、合せ目間隙三〇μm以下になるまで伸線加工することもワイヤ径二・〇~〇・八mmにまで伸線加工することの容易推考の範囲に含まれることになるとの判断は、本件発明の構成を正解されていないものであり到底承服できない。
七 原判決の「まとめ」の部分(判決書二七頁一六行~二八頁一八行)について原判決の認定判断は、すべて承服し難い。
八 上告理由の総括
(Ⅰ) 上告理由の諸点
1 第一点
本上告理由書第三項2(二)(1)(一〇頁一〇行~一二頁一〇行)に記載した、経験則違背よる事実誤認の点
2 第二点
同第三項2(二)(2)(一二頁一一行~一七頁三行)に記載した、経験則違背による事実誤認の点
3 第三点
同第三項2(三)(c)(二四頁六行~二七頁四行)に記載した、経験則違背による事実誤認の点
4 第四点
同第三項2(二)(2)(一七頁四行~一八頁一行)に記載した、上告人が認めていないことを当事者間に争いがないとした点
5 第五点
同第三項2(三)(a)(二〇頁一一行~二二頁五行)に記載した、上告人が認めていないことを当事者間に争いがないとした点
6 第六点
右の第一、第二、及び第四点も原因となって、高充填率(二〇~四〇%)のフラックス入りワイヤを二・〇~〇・八号mmの径に、かつ合せ目間隙が三〇μm以下になるまで伸線加工する本件発明の技術との関連において考察すべき引用例5の技術の評価を誤った点
これに関して、本上告理由書第三項2(二)(九頁二行~一八頁末行)に述べた。
7 第七点
右の第三、及び、第五点も原因となって、高充填率(二〇~四〇%)のフラックス入りワイヤを二・〇~〇・八mmの径に、かつ合せ目間隙が三〇μm以下になるまで伸線加工する本件発明の技術との関連において考察すべき引用例3の技術の評価を誤った点
これに関して、本上告理由書第三項2(三)(一九頁一行~二八頁八行)、及び、同第四項2(二九頁七行~三二頁三行)に述べた。
8 第八点
右第一ないし第七点も原因となって、本件発明が高充填率のフラックス入りワイヤをカセットローラダイスのユニットを直列に配置して線材を連続的に通過させるという新規な方法によって、二・〇~〇・八mmの細径で合せ目間隙三〇μm以下(合せ目間隙三〇μm以下の点は新規物である)になるまで伸線加工する製造方法であることを正解していない点
これに関して、上告理由書八頁九行から三二頁三行までに関係項目に付随して述べ、また、上告理由書第五項(三二頁四行~三三頁一行)、同第六項2(一)(三四頁一二行~三七頁一〇行)、及び、同第六項2(二)(三七頁一一行~四〇頁六行)に述べた。
(Ⅱ) 前項記載の上告理由の諸点のもたらしたもの
原判決は、前項記載の個々の点により、あるいは幾つかの点が重なった結果、容易推考性の解釈ないし適用を誤ったが、これらはいずれも判決に影響を及ぼすことが明らかである。
九 以上述べたように、原判決の認定判断には、経験則違背があり、特許法第二九条第二項の規定の解釈ないし適用において法令違背があり、また、理由不備の違法があるが、これらはいずれも判決に影響を及ぼすことが明らかである。
以上
【参考第1】
一覧表
審判手続の甲号証 原審の甲号証 引用例の番号
甲 4 甲 3の1 引用例3 特開昭55-122623号公報
甲5-1 甲 4の1 引用例4 実開昭55-129506号公報
甲5-2 甲 4の2 実公昭58-18968号公報(甲4の1の公告公報)
甲 2 甲 5 引用例1 特開昭54-86446号公報
甲 3 甲 6 引用例2 特開昭54-38243号公報
甲 6 甲 7 引用例5 特開昭55-158897号公報
【参考第2-1】
孔ダイス、ローラダイス及びカセットローラダイスによる伸線方法の技術比較
1.孔ダイス伸線
図1 円錐孔形ダイスの断面図
(甲第17号証 第4頁第1図)
<省略>
1:ダイスケース、2:ニブ、3:ベアリング(ダイスの内面)4:アプローチ、5:丸形線材
図2 溶接棒用のフラックス入り心線
(甲第5号証 第4頁第2図)
<省略>
1a、1b:充填剤(フラックス)2:心線4:合わせ目
図3 孔ダイス配置
(甲第5号証 第4頁第5図)
<省略>
2:心線、5a、5b:ダイス、
10a、10b:引取ローラ装置
13:切断装置、20:切断された心線
【孔ダイス伸線の特徴】
1.円錐孔形ダイス(ニブ2)はダイス内面3と接する材料表面との間の滑り摩擦が大きい。
(甲第17号証第1頁右下欄19行~2頁右上欄2行)
2.よって、伸線時の引き張り強度が大きくなる。
3.一般的には、引抜加工に要する引抜応力が引抜き後のワイヤの引き張り強さよりも大きくなると断線する。断線を防止するには1ダイス当たりの減面率を小さくし、上記引抜き応力の低減を図る。その結果、孔ダイスの数は増加し、伸線速度が低下し、生産性が極めて悪くなる。
4.フラックス入りワイヤは、丸線(中実線)に比べて線材強度である破断荷重が小さい。特に高充填率、細径のフラックス入りワイヤのヤの場合、断線して伸線が困難となる。(甲第2号証-1 第2欄2行~3欄4行、3欄26行~32行)
5.フラックス入りワイヤの孔ダイスの伸線例は、ワイヤの最終仕上がり径:1.2mm、1.6mm、充填率:14.9%~15.5%である。
(甲第7号証(引用例5) 第3頁 表1実施例)
6.甲第5号証(引用例1)は、被覆アーク溶接棒用のフラックス入り心線の孔ダイスによる伸線例である。
(甲第5号証(引用例1) 第4頁第5図)
【参考第2-2】2.ローラダイス伸線
図4 2連式ローラダイスの原理
(乙第5号証 305頁図5.37)
<省略>
図5 2連式ローラダイスの写真
(乙第5号証 306頁 図5.39)
<省略>
図6 2連式ローラダイスの工程図
(甲第21号証 9頁 第三図)
<省略>
【ローラダイス伸線の特徴】
1.1台の装置の中には図5.37ように2対のローラを直角に配置した2連式ローラダイスが開発され、広く実用化されることになった。
(乙第5号証 第304頁 28行~29行)
この技術は昭和53年5月発行の乙第5号証による。
2.2連式ローラダイスは、ハウジングの中に配置された圧下機構としてヒンジを使用しているため剛性がやや小さいので、中実線で引き抜線の精度が±0.1mm程度なので細線の仕上げとしては無理で中間引きに適しているし、仕上げ線としては、2mmφ以下は困難である。
(乙第5号証の1 第307頁第15行~第308頁2行)
3.2連式ローラダイスの場合は、2組のローラの中心間において線が転倒し易く、転倒すれば所定形状の引抜きができなくなる。
(甲第3号証の1 第4頁左上欄6行~8行)(甲第21号証 第12頁 第四図)
4.2連式ローラダイスによるフラックス入りワイヤの伸線例は、ワイヤ径2.4mm、充填率15.5%までである。
(甲第7号証(引用例5)第3頁左上欄9行~右上欄4行)
また、同ダイスによる中実線の伸線例はワイヤ径2mmまでである。(乙第5号証 同上)
【参考第2-3】 3.カセットローラダイス伸線
図7 カセットローラダイスブロックの斜視図
(甲第3号証の1 第7頁第6図)
<省略>
3:孔型ローラ
5:軸受フレーム
9:組立フレーム
17:ボルト穴
18:メタル覆
19:ナット
図8 カセットローラダイスのローラ配置関係図
(甲第21号証 12頁第五図)
<省略>
図9 2連式ローラダイスのローラ配置関係図
(甲第21号証 12頁 第四図)
<省略>
注:図8と対比して掲載されている2連式カセットローラダイスのローラ配置図
【カセットローラダイス伸線の特徴】
1.隣接する単位ローラダイスは、軸方向が互いに直交するように配置して単位ローラダイスの中心間隔をその直径以下に近接させる構造となり、オーバーラップ結合を可能にした。その結果、カセットローラダイスについては引抜き線の直径に対して30倍程度まで近づられた。
(甲第3号証の1 第1頁左下欄 第6行~9行)
(甲第21号証 第12頁第2行~5行、第五図)
2.任意数の単位ローラダイスを近接して直列に設置し、しかも全体を一ブロック化できるので、一回の通過により、著しい断面減少率が期待できるようになった。
(甲第3号証の1 第4頁左上欄15行~19行)
3.2連式ローラダイスの場合は、2組のローラの中心間において線が転倒し易く、転倒すれば所定形状の引抜きができなくなる。
(甲第3号証の1 第4頁左上欄6行~8行)
(甲第21号証 第12頁 第四図)
4.カセットローラダイスによる丸線(中実線)の伸線径は2mm~0.81mmである。
(甲第3号証の1 第3頁右下欄 第16行~19行)一方、カセットローラダイスによるフラックス入りワイヤの伸線例はない。
【参考第3】
引用例5(甲第7号証)について
引用例5に記載のフラックス入りワイヤの実施例におけるローラダイスに関する製造工程の開示内容
1.引用例5に開示されている製造例を表1のNo.3および4について説明する。
実施例番号3は、帯鋼をU字状に成形加工し、フラックスを充填してローラダイスで3.1mmφの素線とし、次いで2連式ローラダイス(3組)により2.4mmφに伸線後、
孔ダイス(3ダイス)で伸線し製品径1.6mmφに仕上げた。
実施例番号4は、実施例番号3と同様に4.2mmφの素線とし、
次いで2連式ローラダイス(5組)により2.4mmφに伸線後、
孔ダイス(3ダイス)で伸線し製品径1.6mmφに仕上げた。(引用例5 第3頁左上欄9~右上欄4行)
2.実施例番号3(フラックス充填率:15.1%)の製造工程概要図示
<省略>
3.実施例番号4(フラックス充填率:14.9%)の製造工程概要図
<省略>
注:孔ダイスによる仕上がりワイヤの最小径は1.2mmのものもある(実施例番号5)。
【参考第4】
判決文 第21頁11行~12行に関する配置図
1.「複数個のカセットローラダイスを直列に配置する。」伸線工程の模式図を示す。
<省略>